奥津城まで

所謂日記だ。ブログには何度もトライしては挫折してきた。出来ることなら長く続けたいと思い、上のようなブログ名にした所存。

亀山郁夫訳『白痴』第二巻

光文社古典新訳文庫から、亀山郁夫訳『白痴』の二巻目がこの頃出た。一巻目から随分と時間が経っている印象だ。ドストエフスキーの『白痴』は、新潮文庫木村浩訳、そして河出文庫の望月哲男訳と、二訳読んだ。亀山訳に限らず、古典新訳文庫は、「読書ガイド」として解説がまた充実している。勿論、新潮文庫河出文庫も著名な訳者が解説も担当しているのだが、亀山自身が『カラマーゾフの兄弟』に始まり、『罪と罰』、『悪霊』、そして小説である『新カラマーゾフの兄弟』と、研究者、翻訳者、そして実作者として培ってきた経験と実績を活かし、より充実した「読書ガイド」が特徴的だろう。

中でも、「読書ガイド」にすら、クリフハンガー的に、興味の湧く話題を先延ばしにする書き振りが読者の興味を惹く。ドストエフスキー自身、本人が締め切りに追われ、更には債鬼に追われて否が応にも読者の興味を惹くものを書かざるを得なかったからか、冒険小説の技法を習得していると云われるように、章や節の引きがオーソドックスでありながらも巧みだ。まさかそれが訳者解説でも使われるとは思わなかった。

例えば、ムイシュキンの云う「ナスターシャが戻ってきた地獄」とは一体何なのか——訳者による答えは、一巻で提示されたこの問いの答えは、まだ二巻の解説では出ていない、と思う。作品が書かれた時代背景や、用語解説、また文化や習慣の紹介等も当然充実しているが、一部の哲学入門と名の付く本に見られるように、研究者としての見解が濃厚に展開されていることは、一作品で二度、更には三度と愉しめる読書となる。『白痴』は全四巻の予定らしいが、『カラマーゾフの兄弟』の最終巻や、『悪霊』の別巻で詳細な自論と研究成果を展開した研究者としての訳者が、『白痴』において通してどんな論を開示してくれるか——作品そのものの翻訳も愉しみだが、「読書ガイド」の方もまた、作品本編と相補完的、または相乗的な効果を期待する。

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