奥津城まで

所謂日記だ。ブログには何度もトライしては挫折してきた。出来ることなら長く続けたいと思い、上のようなブログ名にした所存。

感情ではなく孤独が人間の証明

嗚呼、前にこのブログを更新してから、早一月以上が経つのだなァ……。

皆さん、酷暑と突発的局地的豪雨の中、如何お過ごしでしょうか。被災された方々には、お見舞い申し上げます。昨年は、実家付近でも水が出、道路が冠水し、自身も消防団として出動する事態になった。

四川省の観光地では地震も起き、自然相手とは云え、被害の甚大さには心が痛む。避難はそこに住む人々の生活を一変させることだし、復興と云うものの大変さも、我々は二つの震災から既に学んでいる筈だ。

 

個人的には、ここ一箇月程で特段の変化はない。そうそう変化等あっては困りものだが、変化というのは、先に触れた災害は無論のこと、ある時は突然に、またあるときは徐々にやってきていて、気が付いたら変わっていたと幾パターンもあるものだ。今の所、自分への変化があるとしたら、後者なのだろう。その変化の行く先が、幸か不幸か、吉が凶かは神のみぞ知るのだが。

 

先月、丁度一年程前から出席させて貰っている読書会「やつはみ喫茶読書会」へと参加してきた。課題本はフィリップ・K・ディックアンドロイドは電気羊の夢を見るか』(浅倉久志訳、ハヤカワSF文庫)。

1982年に「ブレードランナー」として映画化もしており、その続編が近日公開なのだという。その為か、NHKBSプレミアムで「ファイナル・カット」が放送されたので、タイミング良く観る機会を得た。その上での参加である。

ディックとは自分にとって、「俺、本格ミステリのファンだけれども、ディクスンの『ユダの窓』って、まだ読んだことないんだ実は」と云った感じの作家だ。よって、課題本の『アンドロ羊』を読んだのもかなり最近のことである。

ディック作品自体は、近年でも散発的にハリウッドで映画化がされている。それに伴って版権を持つ早川書房等が新装版や新たな短編集を編んで刊行していた。

そんな中、 数年前に『ヴァリス』の新訳が出ると(自分の周辺で一部)話題になった。

ヴァリス』とは、著者がドラッグだかアルコホオルだか、新興宗教に嵌っている状態で書いた、一行読んでも三行戻らないと判らないと曰く付きの作品で、これは読まねばと感じたものだ。

偶々当時参加していた別な読書会で次回の課題本候補に挙がったが、結局違うものになったことも懐かしい。

ヴァリス』に次いで、それに続く『ディヴァイン・インヴェイジョン』等が新訳で出版され、S-Fマガジンではディック総選挙なる人気投票も行われた。亡くなって尚、この国でもディックの人気、そしてリーダビリティは健在だと云うことだろう。

 

『アンドロ羊』では、純粋な生物であれ、電気仕掛けの動物であれ、そして最新型のアンドロイドであれ、それ等に対する感情移入ということがメイン・テーマの一つとなっている。

しかし、本格ミステリの探偵役に顕著だが、感情に乏しいキャラクターというのは、余り珍しものではなくなってしまった感がある。「感情移入」がある種の人間性を、また過言するならば人間の優位性を担保すると云うのは、感情の乏しいそうしたキャラクターの氾濫で、特別なもののようには感じられなかった。

では、何処に自分は注目したか。

それは、後半でアンドロイド達によって贋物だと暴かれた宗教「マーサー教」である。

どうしても『ヴァリス』に引っ張られてしまう所為なのだろう。「感情移入」や所謂神秘体験とは、限りなく個人的な体験である。そして、 それ等個人的な体験を、共有させる。若しくは共同幻想化させるのが宗教である。主人公のデッカードもまた、マーサーの苦行を追体験する。それが幻想なのか現実なのかは不明の儘だが、そうした本来他者と共有出来ない個人的な体験を共有すること——それが「感情移入」のその先であり、宗教の機能だ。

アンドロイドは「感情移入」しない。電子回路に不調がない限り神秘体験もないし、あったとしても神秘体験だとは捉えないであろう。だが感情はある。寂しさを感じもする。だが、孤独は感じるのだろうか。

人間はそれを感じる。そして孤独には耐えられない場合もある。それを解消する方法が「感情移入」であり宗教だ。

孤独と神秘を感じてしまう人間とそうでないアンドロイド、どちが優位というものでは無論、ない。感情を持つ限りなく人間に近いアンドロドと対比することで、人間の孤独さとその癒しとしての「感情移入」そして宗教の片鱗を描いたことで、『アンドロ羊』は、『ヴァリス』等の以後諸作へと続くテーマを内包しているのではないかと思われる。

 

夏は、しかしあっと云う間だ。自分もまた皆さんと同じように面白い本を沢山読み、出来る限り有能な人間であるようにいたいものだ。

 

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