奥津城まで

所謂日記だ。ブログには何度もトライしては挫折してきた。出来ることなら長く続けたいと思い、上のようなブログ名にした所存。

追悼・A先生

藤子不二雄(A)が亡くなった。本名・安孫子素雄。享年八十八歳。

最もよく読んだ氏の漫画は、『まんが道』とその続編である『愛…しりそめし頃に…』だ。前者は地元の図書館に光文社漫画文庫版が蔵書としてあったので。また、後者は1998年に「ビッグコミックオリジナル」で連載が始まっていて、その後単行本になったが、その時にはまだ読んでいない。中学校の近所にある書店で見つけ、冒頭だけシュリンクされていなくて読むことが出来たので眼を通してみたのだが、本を閉じてしまった。このまま立ち読みするのは辛すぎると思った。何故なら、石ノ森章太郎のお姉さんの話から始まっていたからだ。

『愛しり』を通読したのは最近のことである。2018年から翌2019年に掛けて六本木ヒルズ展望台で「藤子不二雄(A)展」が開催されて、それに合わせるように『愛しり』も「新装版」で刊行されたのだ。

その第1巻の巻末には故・藤子・F・不二夫を偲ぶ「さらば友よ」が収録されており、F先生が亡くなられた1996年からもうだいぶ経つが、読む者の涙を誘わずにはいられなかった。

そうして、旧友と共に戦後漫画、特に漫画雑誌創刊の黎明期を駈け抜け、アニメにまで進出し、その旧友を偲んだA先生もまた天国へと旅立たれた。

 

今日、ニュース7で、A先生の訃報を放送していた。そこで、往時のインタビューが流され、A先生は名実共に彼らの師である手塚治虫と自分を較べて、手塚先生のマンガには「普通の人」が出てこない。つまり皆ヒーロー然とした主人公ばかりだ。しかし自分(とおそらくF氏の)マンガの主人公は「普通の人」であり、普通の人である主人公の日常におかしなキャラクターが闖入してくる面白さがある旨のことを語っていた。

それは鋭い分析だ。そして師である手塚と、手塚を尊敬しながらも自分達が彼と肩を並べるマンガを描いてきたという実績に裏打ちされた自信さえ感じる。

まんが道』を読んでも判るように、A先生は多才な人物だ。学校の体育は苦手だったそうだが、野球をプレイするのは大好き。そして後にゴルフも嗜む。お酒にも強く、キャバレーなどの大人の社交場にも顔を出す。それは長じてからもそうだった。つまり、いつまでも元気な現役漫画家というのが、私にとってA先生に対する印象だった。例え八十歳を過ぎていても……。

 

人は、それがどんな元気で、偉業を成し得た人物であっても必ず死ぬ。しかし、それで空いてしまった「心のスキマ」は容易には埋まりそうにない。

きっと天国で藤本弘先生と再会し、同じ天国にいる手塚先生に見せるために、また二人で漫画を描いているのだろう。「人生はいつかは終わる…だが、まんが道は永遠に続く」

 

 

SENSNEI